「まず、髪は絶対に銀色」



 それもとびきりの白銀。



「長さは背中が隠れるくらい」



 動くたび揺れ、毛先が弧を描いて跳ねる。



「目も銀」



 一度見たら二度と忘れられないくらい印象的で、



「当然美人」



 誰もが魅せられる女。






























「――初めまして、私」



 白銀の髪がふわりと宙に広がる。
 白銀の髪に白銀の目。――自分とおおよそ同じ容姿で柔らかい笑みを浮かべる女に、イヴリースは口角を吊り上げ楽しげに笑った。



「イヴ、か」
「えぇ」



 美しく聡明で、争いを好まず全てを許し、絶えず微笑み続けるAの理想の女。神に生み出された最初の命――イヴ。



「貴女はイヴリースでしょ?」
「あぁ」



 そして楽園を追放されし者。



「私と貴女。一体何が違ったのかしら」



 憂鬱気に髪を弄りながらイヴはイヴリースに問う。



「ねぇ、貴女に分かる?」



 見捨てられた哀しみの在りかを。



「私があの子の中で最初に生まれたのに、私はあの子の一番じゃない。私と同じ姿をした貴女は誰よりも愛されているのに、私は違う」



 混沌[カオス]より生まれ、光り輝く容姿に底知れぬ影を内包するAの理想のヒロイン。漆黒の申し子――イヴリース。
 自分と彼女の、一体何が運命を隔て導いたのだろう。



「憎んでいるのか? 私を」
「えぇ、そうよ。憎らしくて仕方がない。私と同じ姿で愛を貰った、貴女が」



 唐突に、



「ほざくな」



 イヴリースの顔から笑みが消え失せた。
 同時に渦巻いた凄絶な力にイヴは目を瞠り、無意識のうちに鎖を通し胸元に吊った指輪を握り締める。



「不愉快極まりないな」



 銀の指輪の嵌った左手を肩の高さにまで上げ、イヴリースは目の前の力ない「イヴ」を嘲笑うかの様に力を発現させた。



「お前という存在が残っているという事実が、何よりもの証明だろう」



 銀の指輪から溢れ出した混沌がイヴリースを取り巻き、肥大する。



「Aが本当にお前のことを見捨てているのなら、もうお前はどこにもいない。いるはずがない。――そんな事も忘れたか、イヴ」



 空間を侵食し、世界へと取って代わろうとする混沌をも操る力を与えられた存在[イヴリース]。



「それで満足しろって言うの? ただ≠サこに存在しているという事実に?」
「・・救いようがないな」
「私は全てが欲しいのよ! 貴女が与えられ私が与えられなかった、全てが!!」





「消えろ。Aの考えも知らず憎悪を知ったお前の存在を、私は許さない」





 純粋な無である混沌[カオス]にあって、唯一人己を見失わない稀有な存在。
 完全に混沌と化した世界でイヴリースは残された指輪を手に取った。



「お前は美しすぎたんだよ、イヴ」



 真っ白な、名もない物質で出来たその指輪だけは混沌を拒絶し、今もまだ拒絶し続けている。



「だから負の感情を知り、穢れる事は許されない」



 こんなにも愛されていたのに。



「妙な事に拘るからな、Aは」



 イヴリースの手放した指輪は混沌の中に消えた。
 けれど消滅したわけではない。永遠という時を混沌の中で過ごすのだ。――Aがまた必要とするその日まで。



「・・・馬鹿な奴だ」



 「イヴ」という役を演じるだけなら誰にでも出来る。Aの欲しかったのはあの指輪の様に真っ白な「イヴ」であって、決して「イヴ」という役を演じ続ける存在[イヴ]ではない。
 演じ手では駄目なのだ。Aと共に在るには。



「私はあくまでイヴリースだったのにな」



 そのことに気付けなかった愚かなイヴ。自らを偽る者をAは決して許さない。
 物語において与えられた役割以外でAに与えられた心を偽る事は、その存在を紡いだAへの冒涜に他ならなかった。










「おやすみ、イヴ」



 無へと溶けたもう一人の私。