不死族普通種としては、純血種に匹敵するほどの力を有していた美香。


(殺し屋ブラッドローズ、ねぇ)


 その美香を一度は仕留めたヴァチカンの狩人。


(勝てるのか…?)


 イヴリースは目の前で行われている死闘の行方を知りえなかったが、自らが望むように操ることはできた。
 殺しの技術で勝るのはブラッドローズの方だろう。久しくヴァチカンの汚れ仕事を任されて来た腕前は伊達でないはずだ。
 だが純粋な能力だけで言えば、完全に美香の方が上回っている。まだ上手く扱えてはいないが、ちょっとした切欠さえあれば容易くブラッドローズを倒すことが出来る。
 美香はそんな決着を望みはしないだろうが、イヴリースとしてはそれでもよかった。要は気付かれなければいい。


「んー…」


 けれどより面白い展開を、彼女は望んでいる。


「おや?」


 より面白く、より、退屈しない展開を。










(剣が…!)
「今まで持っていたことの方が驚愕だよ」


 派手な音をたて砕けた剣の、飛び散る破片を避けるよう距離をとり、美香はザッと如月を払った。


「貴様の力に耐えられる程の器も、私の斬撃に耐えられる程の力も、そいつは持っちゃいない」


 周囲には死が溢れているというのに、それを喰らえていないという現状が如月を苛立たせ、凶暴さに拍車をかけている。
 その激情といえば、傍目にも真紅の刀身が脈打って見えるほどだ。


「食後の休眠中でもない限り、私と如月の敵じゃない」


 美香の言葉に応えるように、如月が一際強く脈打つ。
 リアは深々と息を吐きながら折れた剣の柄を捨て、構えを解いた。


「…最後まで抵抗してくれない?」
「諦めたなんて言ってない」
「へぇ?」


 死を覚悟したかのようにも見えた行為にどんな意味があるのだろうと、美香は思考をめぐらせかけ、――やめた。
 どうせ見ていれば分かるのだから、少しくらい待てるでしょう? ――そう、言い聞かせるよう如月に頬を寄せる。
 それでも、彼女の中で渦を巻く憎しみは肥大するばかりだった。
 敗北は許されない。なのに私は負けて、死んだ。イヴリースのおかげで生き返りはしたけれど、もう二度と、あの自由な日々は戻らない。


「――琴音[コトネ]」


 あの、自由で窮屈な日常が、今は酷く遠い。




















「おい、そこのお前」


 イヴリースの上げた声は場違いに明るかったが、同時に放たれた力は確実に相手の命を奪うためのものだった。


「ッ!」


 轟音を立てて弾ける地面。間一髪でその攻撃を避けた男――ロア・サイレントブルー――は、突然の出来事に訳も分からず攻撃を仕掛けてきた女――イヴリース――を凝視した。
 構わず、イヴリースは新たな力を紡ぐ。


「避けないと死ぬからな」


 ロアは地を蹴った。