「港の倉庫街、吸血種の流民、数は20人前後」


 望月に知らされた仕事の内容をもう一度繰り返し、リアは足元の天窓から倉庫の中を覗き込む。


「…30人以上」


 海を越えればそこは約束の地。人と人でない者が共存し、全ての不自然が自然と存在する、この世の楽園。
 人でない者として生まれた彼等はそんな世迷言を信じているのだろうか。


「また、手違いか…」


 少なくとも私は信じていない。










「――、」
「おや?」


 唐突に殺気だった美香[ウツカ]の隣でイヴリースが声を上げるのと、天窓が蹴破られるのとはほぼ同時だった。
 遅れて、倉庫の中で身を寄せ合っていた逃亡者達が事態に気付く。


「Amen.」


 刹那が命運を分けた。
 飛び込んできたヴァチカンの狩人は一瞬で5人の不死族を切り裂き、間をおかず次の獲物へと襲い掛かる。武器をとる時間さえ与えない。


「あれを相手にするのは不味くないか?」


 元々不死族としての力を持っているだけで、ろくに戦ったこともないような連中だ。全滅は免れないだろう。


「ならどうやって倭へ渡る?」


 如月[キサラギ]を抜き放とうとしていた美香はじろりとイヴリースを睨み、睨まれたイヴリースは肩を竦める。


「次の船とか」
「却下」


 既に倉庫は血の海だった。


「あれは如月に喰わせる」


 雑魚の始末を終えた狩人の視線はイヴリース達へと移る。


「…どうぞご自由に」


 スラリと真紅の刀身が抜き放たれ、放り投げられた鞘を受け取りイヴリースは片膝を抱いた。
 そう物事にこだわる方でない美香の、これはケジメなのだろうと、一人納得しつつ傍観を決め込む。


「若いなぁ」


 狂気が渦巻いていた。




















 ざわり。





「なんだ…?」


 不意に大きく脈打った心臓。漸く手に入れた獲物の首から思わず顔を上げ、辺りを注意深く見回してみても、自分と獲物以外に生き物の気配はない。ない、と、言うのに――


「……」


 なんだこの胸騒ぎは。


「チッ」


 さっさと済ませてしまおうと、望んで喰らうわけでもない獲物の首に今度こそ牙を突き立てる。流れ出る鮮血にこれといった味はない。同族は本来それを美味だと感じるのだろうが俺は感じない。感じたくも、ない。


「ぅ…」


 貧血程度で済むように量を加減し、獲物を支えていた両の手を解いた。
 ドサリ。


「…まず」


 味覚としてではない後味の悪さに顔をしかめ、唇を乱暴に拭う。
 最後に身動ぎ一つしない獲物が生きているかどうかだけ確かめると、闇に紛れるように路地裏を後にした。