「おかえり、ブラッドローズ」
「・・・ただいま」


 生活感のない部屋に一つ、置かれた鳥籠の上に座った朔[サク]に声をかけられ、リアは愛想なく答えた。
 パタパタと何度か背についた漆黒の翅[ハネ]を揺らし、朔は片膝を抱える。


「不死族の匂いだ」


 脱ぎ捨てられたコートがベッドの上で広がった。


「一人殺[ヤ]った」


 朔はまた翅を揺らし、視線を窓の外へと向ける。


「対不死族部隊の稼動実験に付き合ってたんじゃ?」
「手に負えないようだったから私が仕留めた。奴らのメモリにもそう記憶されているはず」
「どうだか」


 ぽっかりと浮いた満月が部屋の中を照らし、その明かりで十分なのかリアは他に明かりを灯そうとしない。
 だから、朔はまた翅を揺らし今度こそ飛び立った。


「おやすみ」




















 闇が手を伸ばし更に濃い闇を抱き込む。




















「リア、起きて。リーアっ」
「ん・・・」


 耳元で叫ぶ白い翅の不死蝶――望月[モチヅキ]――の存在に、リアは夜が明けていることを悟る。
 太陽が空にある間は白い翅の望月。月が空にある間は黒い翅の朔。その不自然な存在が許されているのは、彼女たちが神によって生み出された愛玩物だからなのだと、誇らしげに語る望月の姿が脳裏を過ぎった。あれはいつのことだろう。


「何・・・」
「仕事よ。し・ご・と!」
「稼動実験は「あれは駄目よ。また調整。ラボ行き。暴走した吸血種に対しての対応が全然なってないから」
「・・・あの装備ならあれで正解だと思うけど」
「んー、そうなんだけど、ラボの連中は違うのよ。もっとこう・・・とにかく、お目付け役なしで不死族を狩れるようにしたいんですって」
「ならあれは思考が機械的すぎる。生物は、計算通りの動きなんてしない」
「それラボの連中に言ってやったら?」
「あそこの臭いは嫌い」


 枕元に立っていた望月が吊り下げた鳥籠の上に移り、リアは漸く体を起こした。
 昨日までの疲れは一切残っていない。いつもそうだ。滅多に疲れることも、疲れを引きずることもないからヴァチカンの人間はリアをいいように使う。
 望月はリアの従順な態度が気に入らないらしいが、リアからしてみれば他にすることもないのだ。――望月に起こされなければ、もう二度と目覚めないのではないかと思うことすらあるくらいで――今の生活にこれといった不満はない。


「それで・・・仕事は?」


 何かを欲するべき時はとうの昔に終わった。私は、ただここにいて生きてさえいればいい。それ以上望むべくもない。


「いつもと一緒よ。逃げる不死族を殺して殺して殺して、殺すの」


 望月は何が気に入らないのだろうか。


「同じ不死族の、貴女が」










 私は何も望んでいない。だから辛くなんてないのに。