覚醒した意識が渦巻く力を捉え、空虚な身体が疼いた。



「よせ」



 無意識の内に伸ばした手を引かれる。



「ゆっくりだ。一気に喰うと俺もお前も辛い」
「ん・・」



 沈んでいた体は引き上げられ、それに伴い身体の内と外は逆転した。
 周囲にたゆたっていた力は身体の内側へと収束し、内側を蝕んでいた無≠ヘ、神気の湖に溶けてなくなる。
 貪欲な神器はそれでも足りないと訴えるが、これ以上神の力を取り込んではいけないと暁羽にはわかっていた。



「・・・もういい」



 力を与える華月にとっても、力を受ける暁羽にとってもこれ以上は危険≠セ。人でありながら神の力を行使する華月にとって力の枯渇は肉体のバランスを崩すことに繋がり、最古の神器の力を有する暁羽にとって、身体の内側を神の力で満たすことは人としての楔を解き放つことに他ならない。



「大丈夫か?」
「平気」



 それは私が今のままでいられなくなるということ。そんなこと私は望まない。人としての存在を有していなければ、魂の海に還ることは出来ないのだから。



「まだ少しふらつくけど、すぐよくなる」
「神器の方は?」
「落ち着いた」



 改めて差し出された華月の手をとって漸く、暁羽は彼の身に着ける勾玉の存在に気付いた。



「それ・・」



 刹那の驚愕。次いで思考を埋め尽くす、恐怖。



「卑弥呼が寄越した。馴染んでるみたいだから、大丈夫だろ」
「きけん、すぎる・・もし暴走したりしたら・・・」
「平気だって」
「カヅキ!」
「暴走したりなんかしない。卑弥呼がお前の血から作った勾玉なんだから、ちゃんと俺を生かしてくれるさ」



 一目見てそれが何かわかった。わからないはずがない。この身――最古の神器――の一部なのだから。それがどういうことか華月にだって分かっているはずだ。なのに何故――その存在が孕む危険性を知っているはずなのに――。



「暴走してからじゃ遅いのよ? 何でそんなこと・・」
「他に手がないだろ」
「っ・・・」
「・・もうこの話はやめよう。本当はわかってるんだろ? こうするしかないって」



 たとえどれほど分断されようと神器は神器。その力は失われることなく、何を切欠に暴走を始めるか誰にもわからない。一度暴走を始めれば誰にも止められない。周囲の全てを無に還し尽くすまで、神器はその力を解放し続けるだろう。――身に着けている者が無事でいれる訳がない。



「だから、もうやめよう。このままこれを持っていてもいなくても、どうせ今のままじゃいれない。俺はいつか、全ての代償を支払うことになる」



 この身が唯一と決めた神を殺すのだ。



「でも、ねぇカヅキ・・・約束したでしょ・・?」
「・・あぁ、憶えてる」



 誰も、誰かを解放する術なんて持たない。この国では、己の鎖は己で喰いちぎる他ない。
 なら、



「絶対守るよ。この名にかけて」










 己を持たない私は、一体どうやってこの鎖を喰いちぎればいいのだろうか。










(答は、ない)