「門が叩かれた」



 いつもと変わらない。高天原においては水鏡を覗く以外の楽しみはなく、倭においては人が人であるが故の不可解なことが多々起きる。



「理由が正当である以上、守は門を開かねばならんな」
「――冬星が門の前にいるのにか?」
「通る側も通す側も力においては神。まぁ、そこはどうにかするさ」
「・・・」
「心配なら行ってやればいいものを」



 神々は争うことの無意味さを知っている。だから争わない。
 倭に生きる者は争うことの意義を知っている。だから争うことをやめない。



「嫌味か」
「そう聞こえたのなら、そうなのだろうさ」



 どちらにしろ愚かしいことだ。



「さて、妾は新しい継承者を見繕わねばならんな」



 そうでなくては面白くない。






























「随分とあっけなく捕まったようですね、夜空」
「・・・お前だって同じだろう」
「おや、これは予想外の反論だ。まさか誇り高き地狼ともあろう者が、自分の無能さを棚に上げるつもりですか? そもそも、君が捕まらなければ僕が捕まることもなかったんですよ。守るべき契約主をおいてどこで何をしていたんです? 夜空」
「・・・・・」
「まぁ、どうでもいいですけどね」



 目の前で項垂れる夜空を一瞥し、蒼燈は笑った。
 本当に時塔蒼燈であったころの激情は、時塔が持っていってしまったらしい。――憎き地狼が目の前にいて、殺すことの出来る力を今持っているというのに、僕の中にそうしようという意思が芽生えることはない。それどころか、哀れみすら覚える。



「とりあえずこの地の守護を頼みます。くれぐれも、暁羽が戻るまであの時の二の舞はないように」
「――御意に」



 彼を育んだ大地は遥か彼方。大地そのものである地狼は、召喚師の国を離れた時点で時塔蒼燈の命に依存した。そしてこれからも、召喚師としての力を持った蒼燈の命に依存し続ける。
 朽ちることのない神子の器は、永久に逃れることのできない呪縛となって彼を苛むだろう。



「Buona fortuna.」






























 深紫の獣が彩光を駆け、紡がれた守護はパキラの守護を包み込むように広がっていった。
 まどろむ程度の午睡から覚め、パキラは再びその姿を現実のものとする。



「リカコ」



 嗚呼、今日はなんて愉快な日だろう。言霊の姫巫女が出来損ないの神を連れて来たかと思えば、そいつはボクの継承者を掠め取り、かと思えば他の神を使って彩光の守護を強めた。



「さよならっぽい」
「――は?」



 あまつさえ高天原が次の継承者探しに動くなんて、彼の地に住まう天照大神も大概神器に甘い。
 まぁ、面白かったから別にいいけど。



「どういう意味です、パキラ・・?」
「そのままの意味だよ」



 彩花に渡すためケースに収められた「パキラ」を見つめながら、パキラはどことなく寂しげに笑った。
 それが、リカコの見た最後の彼。










「あの一族、結構ボクのこと大事にしてくれたんだけどなー」
「事情を知れば誰でも大切にしてくれますよ」
「あ、やっぱそう?」



 カランと、落とされたケースが白々しい音を立てて転がった。



「バイバイ、リカコ」






























 誰も、誰かを解放する術なんて持たない。この国では。