「よかったの?」
「さぁな」



 よくはないのかもしれない。けれど裁きを終えた罪についていつまでも引きずるのは、倭においてタブーにも似ている。
 罪には相応しい罰が下され、その執行を持って罪は無へと還る。魂はみな平等で、決して過去の罪に穢されはしない。
 ならば私はどうしなければならない? ――そんなことわかりきっているだろうに。

 不必要な思考を嘲笑と共に一蹴し、沙鬼は晴れ渡る空を仰いだ。



「暁羽が何も言わないなら、いいだろ」



 考えるまでもない。



「君はそればっかりだね」
「悪いか?」
「凄く君らしいよ」



 呆れたような諦めたような――どちらともつかない――煌の言葉に声を上げて笑った。
 そう、そうに決まっている。私は私として目覚めた時からずっとこうなのだから。
 ひとしきり笑うと沙鬼は立ち止まり、ついと視線をあらぬ方へ流す。



「沙鬼?」
「サボるか」



 たった一人の意思だけが、沙鬼を動かすにたる。
 たった一人の意思以外――たとえ彼の天照大神であろうと――、沙鬼を動かすことは出来ない。



「君らしいね」



 苦笑混じりの言葉には、やはり得意げな声が返った。



「当然だ」






























 この男はなんて温かく笑うのだろう。



「ここで待ってますよ」



 リカコのいる理事長室の前まで――当然のように――ついてきた蒼燈が壁にもたれそう言い、上手く追い返すことの出来る言葉も口実も見つけられず彩花は頷く。
 そして扉を叩いた。










「彩花です」



 控えめなノック。聞き覚えのある声。



「入りなさい」



 リカコの許可を得て開く扉。見覚えのある子供が理事長室に足を踏み入れる。
 さっきまでいた子供――嗚呼でもあれをそう呼ぶのはあまりに失礼か――の妹。そして――



「うわ、」



 こりゃだめだ。
 久々のイベントに高揚した思考の最中、思わず自分の口をついて出た言葉にリカコが瞠目するのが見えたが、パキラは構わず額に手をあて天を仰いだ。



「どういうことです」



 今は℃ゥ分の持ち主であるリカコが詰問するような声で――そりゃあ驚きもするわな、このために育ててきた子供にいきなり駄目出しじゃ――言い、閉じていた双眸の内、右目だけを開き彼女を睥睨する。



「こいつ、神憑いてんじゃん」



 扉の前に立ち尽くす子供。その右手に、まざまざと刻まれた「印」。
 示すところは「贄の強奪」。それは自分に対してのこれ以上ない宣戦布告だが、――パキラは酷くおかしそうに笑った。



「しかも結構な奴。ボクよりそいつのがいいんじゃない? 彩光の守護」
「パキラ!」
「怒るなよ。ボクのせいじゃないだろ? 八つ当たりもいいトコだ」
「しかし、」



 嗚呼、可愛そうに。資格を失った「継承者」の顔は蒼白だ。



「あいつはボクの所有者にはなれない。ボクの所有者になれなければ継承者とは認められない。継承者にはなれない。ならここにいる必要はないよな?」





 行っていいよ、不幸なお姫様。





 パキラが冗談めかしてそう言い、エリカが「行きなさい・・」と項垂れながら告げた。
 自分の手が面白いほど震えているのを自覚しながら、彩花は一度頭を下げ理事長室を出る。



 ――継承者にはなれない



 パキラの言葉が、終末を知らしめる為に何度もリフレインした。










 おしまいだ。