「失礼しました」 開かれた扉が再び閉ざされるのを待って暁羽は目を開けた。 持ち上げた視線の先でさらりと濃色の髪が揺れ、人のよさそうな笑みを浮かべた少年が振り返る。 「お待たせしました」 その存在を象徴するかのような色をした瞳が、暁羽を捉えた。 「一人で帰れる?」 「えぇ」 「なら、私は授業があるから」 態々待っていたにも関わらず自分を置いて踵を返した暁羽に、少年は――その答が予め与えられたにも関わらず――尋ねる。 「どちらへ?」 暁羽は振り返らずに答えた。 「あの子の誕生日なの」 それは先程の言葉と矛盾する。 けれど少年はそのことを咎めはせず、たった一言を、遠ざかっていく暁羽の背に投げかけた。 「それはおめでとうございます」 応えは返らず、少年もまた歩き出す。 ――これが、罰よ 音としてではなく、脳に直接響いてくる言葉に蒼燈は深い闇の底から呼び起こされた。 そして同時に理解する。 「僕にとっては、随分と嬉しい罰ですね」 失われたものがある、と。 「彼女にとっては違う」 今度ははっきりと鼓膜を震わせた声の主を見止め、蒼燈は笑う。 「やはり貴女ですか」 「おはよう。かつて時塔蒼燈であった者」 声の主――今は「最古の神器」と呼ぶべきか――は、淡く笑みすら浮かべながら言った。 蒼燈はその言葉の意味を知っている。――否、理解させられた。強制的に、脳に直接情報を叩き込むという、非常識極まりない方法で。 だから蒼燈は彼女が誰か知≠轤クとも、彼女が何かは識≠チている。 「神の器、人の力を持ちし者」 「考えましたね」 ずっと感じていた。 「それが、僕の力を探っていた理由ですか?」 「結果的には」 「そうですか」 果てがないようにすら思えた大洋。その先に見えた、一握りの大地。 地を統べる夜空が危険だと言い、本能が異質だと叫んだその島に似た、気配。 「風の王が連れていた少女。水の神が連れていた少女。そして貴女。貴女が連れていた少女にも少し気配が残っていましたが――全てが、異質だ」 「それは、私達が「死」を持っているから」 「死」そのものであるにも関わらず、違和感なく「生」に溶け込む。 「死」だからこそ、表裏一体である「生」に容易く紛れ込む。 「それは誰もが持っている終焉だ」 「人は死ぬけれど魂は巡り続ける」 「輪廻、ですか?」 「でも、私達はその輪を断ち切る力を持っている。だからこそ、誰よりも純粋な「死」を知っている」 「それは、」 「私達――最古の器――は、終わらせるために生まれた」 ただ、「死」は故に純粋な「生」を生む。 「蒼燈。神を憎む神子であった者。貴方は世界に何を望む?」 「僕は――」 「安寧、ですかね」 彼女が逃げてしまわないように。 |