「邪魔をしますか」 「私の御主人様は我侭だからな」 振り下ろされた刃を真っ向からから受け止め沙鬼は皮肉気に唇を歪めた。 そのまま沙鬼の持つ刀の鞘に得物を弾かれた蒼燈は彼女――そしてその足元に倒れ伏す瀕死の風王須佐――から一旦距離をとる。 「時間稼ぎを仰せつかった」 鞘についた止め具で刀をベルトに固定し、沙鬼は腰を落とした。 「だから私はお前を止める」 すらり。抜き放たれた刃の色に、蒼燈は声を上げて笑う。 「クッ・・ハハハ! ――そうですか。・・そちらも大分焦っているようですね」 「はきちがえるな」 蒼みがかった銀色の刀身。 刃を地面と水平に構え沙鬼は凄絶に笑った。 「焦る必要などない」 淡い燐光を放ちながら刀が空[クウ]を滑る。 両手に持ったナイフを交差させそれを受け止めようとした蒼燈は、切り結ぶ刹那目を瞠り鋭く舌打ちした。 「えげつない刀ですねっ」 右手に持ったナイフを咄嗟に引き、左手のナイフを逆手に持ち替え刀を受ける。 「砕けろ」 使い慣れた刃が震えた。 「ッ!」 眼前で砕け散った刃がキラキラと光を弾き落下する。 左目に走った鋭い痛みに蒼燈が顔を覆った。 「――本当に嫌な国ですねここは、刀でさえ力を持つ」 「全てではない」 「同じことですよ。僕の前には、力を持ったモノしか現れない」 膝を突いた蒼燈を執拗に攻撃しようとはせず、間合いの一歩外で沙鬼は切っ先を下ろす。 顔を上げ左目を覆う手をどけた蒼燈の目からは、一筋の鮮血が涙のように流れ落ちていた。 「それはお前が神を連れていたからだ」 「夜空のことですか? あの獣[ケダモノ]のせいで、僕が追われていたと?」 「神は神の世に、人は人の世に。――天照大神がそう定めた」 「それで、夜空は?」 「今頃は出雲[カミノヨ]に在るさ」 刃のない柄を投げ捨て、蒼燈は閉ざしていない右目を細める。 ゆっくりと口角を吊り上げ、ついには耐えられないと言わんばかりに声を上げて笑った。 「何がおかしい」 「――そういうことですか」 右手に持った無傷のナイフまでも手放し、左腕の付け根をつかむ。 訝しみ眉根を寄せた沙鬼の視線を気にもせず、蒼燈は、そのままシャツの袖を引きちぎった。 「僕をあまり、見くびらない方がいい」 手首から肩にかけて――左腕全体に――巻かれていた包帯がするすると解けていく。 「夜空と僕を引き離したのは間違いでしたね」 顕になった素肌を、――黒く青く――禍々しい刺青が埋め尽くしていた。 「――全く」 暗く暗い水底[ミナゾコ]。 「情けない」 全ての命が還る場所。 「そうは思いませんか?」 淡く瞬いた光。 「姉上」 「何だ、それは」 暁羽に持たされた華月神の「矛」がカタカタと震える。 「時塔、ですよ」 傷ついた左目から血の涙を流し蒼燈は笑う。 「僕が最も忌み嫌う力」 |