愛してるよ。
 かけられた言葉を拒絶したのは半ば条件反射。

 一緒にいてやる。
 差し出された手を取ったのはあるはずのない本心。

 何も信じない。
 吐き捨てた言葉に貴方が何と答えたのか、私はもう憶えていない。










 でもごめんなさい。






























 私はエリカのお人形でなければならなかったのに。






























「・・・――」



 溜息ともつかない吐息と共に頬を流れ落ちた雫を拭い、辿り着くなり崩れ落ちたベッドから体を引き上げた。



「くらい・・・」



 開け放ったままの窓から流れ込む風が淡くカーテンを揺らし、慰めるように頬を撫で去っていく。
 とめどなく流れ落ちる涙を拭う事は諦めた。



「――誰」



 あの夢を見た日はいつもそう。涙はいつまでたっても止まらない。
 暗がりで息を潜め暁羽の様子を窺っていた影は、わざとらしく肩を竦めると月光の射す窓際へと進み出た。
 ゆっくりとした動作で腰を折り、恭しく礼をとる。



「四川 架艶[シセン カエン]」
「いかにも」



 その存在が人ではないと、暁羽の直感が告げていた。



「神門[ミカド]の守護妖[シュゴヨウ]が何をしにきた」



 けれどそんな事はどうでもいい。人でないものなどこの国には幾らでもいる。
 重要なのは、相手の存在ではない。



「別に? ただ言霊の姫巫女が珍しく結界の外で器を休めたから、顔を見に」
『出て行け』
「ッ」



 放たれた言葉が力となって存在を脅かし、架艶は浮かべる微笑を苦笑へと変え言霊が過ぎ去るのを待った。
 対峙する少女が知る名は自分の真名[マナ]ではないというのに、何という強制力なのだろう。妖[アヤカシ]の中でも随一の力持つ自分が、一瞬でも従いかけた。



「凄いな」



 稀代の姫巫女という噂は、巫女の七光ではなかったということか。



「さすが大み「黙れ」










(眠い・・)



 眉一つ動かず左手を持ち上げ、暁羽は平坦な声で唱えた。



「伏して願い奉らん」
「?」



 けれど放たれた言葉には何の力も込められてはおらず、首を傾げた架艶を歳相応の笑みで嘲笑う。
 ただただ、過信というのは愚かしい。



「二度と来るな」『失せろ』



 二つの声が重なった。










「夜中だぞ、今」



 風を孕み宙に広がる青みがかった銀髪は一瞬で消え失せ、確かめるように闇色の髪を掻き上げると華月は軽く息を吐く。
 架艶の存在と気配は完全に消え失せていた。



「ごめん」
「・・・いや」



 さらさらと流れ落ちる涙を目にとめ、フローリングの床に直接腰を下ろすと華月は見上げるようにして暁羽の涙を拭う。
 そんな行為が気休めにすらならない事を、その涙が止まらない理由を知っていて、尚。



「寮に戻ってこないから、探しに行こうかと思ってたんだ」



 知っているから、こそ。



「今日は特別な日だから」










 10月24日










 それは言霊の姫巫女が生まれて、エリカのお人形が死に、たった一人エリカが眠りについた、哀しい日。