単色の世界に流れ込んだ力は、瞬く間に凍てついた炎を砕き、燃え上がる黄昏を呑みこんだ。
 そして世界の奥底に押し込められた魂を引きずり出し、世界の主に傍観者の存在を知らしめる。
 捕食者と獲物という関係は、瞬く間に崩れた。


「(苦しいのかい・・・?)」
「わからない」
「(少し、休んだほうがいいよ)」
「おまえは、だれだ」
「(苦しいし、疲れたんだろう?)」
「わたしは・・・」


 溶け合いかけた魂。決して交わらない精神[ココロ]。それでも一人ではないのだと、僕は君に囁く。


「もう、にげなくてもいいのか」


 初めから、逃げる必要などなかった。




















「どうする気だ?」


 降り注ぐ陽光を弾き煌いていた髪が、流れるように黒く染まる。


「連れて帰る、って言ったら?」


 腕に絡み付いていた古の鎖を落とし、「妖狼であった者」を見下ろしながら暁羽は緩く笑った。


「本気か?」
「欲しいんだけど、ダメ?」


 驚愕と呆れ混じりの問いには、酷く楽しげな声が返る。


「ダメとかそういう問題じゃないだろ。・・・妖狼の捕獲は卑弥呼の命令だぞ、一応」
「この子はもう妖狼じゃない」
「屁理屈」
「どうとでも」


 一目見てそれが「相応しい器」だと思った。古の鎖に縛られながらも、抗うことを決してやめなかった銀の妖狼。


「・・・・まさかこいつが人に化けたのもお前じゃないだろうな」
「さぁ?」
「ったく・・・」


 いつまでも「守」をつけないわけにはいかないと言ったのは、他でもない卑弥呼だ。ならばこの行為を咎められることもないだろう。


「欲しいんだけど、ダメ?」
「勝手にしろ」
「ありがと」


 ともすれば、これこそ卑弥呼の思惑通りなのだ。


「服わぬ者よ――」


 けれど悪い気はしない。




















「君にしては随分時間がかかったね」


 ドックの中央、専用のプールに満たされた緩衝水に、メタリックブルーのヴォワテュールが沈んでいく。
 淡く光を放つ緩衝水は波紋を広げることもなく主を迎え入れ、何者からも守るように透明な隔壁の中へと身を潜めた。


「頼んだやつは?」


 プールの脇に置かれたコンソールに寄りかかり、眠たげな視線を向けてくる華月に、蘭[ラン]は悠然とした笑みを向ける。


「君はいつも唐突だけど、私は優秀だから」
「悪いな」


 貴重な睡眠時間を削られたことに対する不満も、何の知らせもなく留守にしたことに対する批判も、その笑みが綺麗に覆い隠した。


「彩光の妨害がない分、暁羽ちゃんの時よりは大分楽だったよ」


 元より華月からの頼みならば是非もないと、蘭は思っている。巫女である彼の命令に強制力はないが、彼なくば一族は立ち行かない。彼が必要とするならば――それがどんなに私的なことだと思われようとも――、一族が必要としているも同じ。


「指定がなかったから、学年も寮も暁羽ちゃんと同じにしちゃったけど、いいよね?」










 彼は常に、一族の総意となりうるのだ。