たった一つの感情に塗り固められた存在は酷く頑なであった。



「(苦しいのかい・・?)」



 誰の声も、誰の力も、誰の心も届かない単色の世界。
 凍てついた炎、あるいは燃え上がる黄昏の様な色をした世界の奥底に押し込められた魂。



「(少し、休んだほうがいいよ)」



 永い眠りに落ちる前覚えた感情は、その色の持つ力の前ではあまりに無力だった。
 溶け合いかけた魂、決して交わらない精神[ココロ]、捕食者と獲物という関係でしかない僕ら。



「(苦しいし、疲れたんだろう?)」



 それでも僕は、失った希望を君の歩む未来に望んだ。






























 ――ここだよ





「・・・見つけた」



 朗とした声で暁羽が告げる。
 その背を流れる髪は、とうの昔に色を変えていた。



「どこだ?」



 輝かしい銀色[シロガネイロ]へと。



「遠くない・・引きずり出せる」
「おい、無茶はよせよ」
「自分の心配だけしてれば」



 そっけなく言い放ち暁羽は目を閉じた。
 言葉とは裏腹に、発現する力の加減には細心の注意が払われ、決して周囲を取り巻く結界に負担をかけないようにと、行使することの出来る範囲が絞られていく。



「我が名の下に力を示せ。我は汝。汝は我。我が名の下に力を示せ、――古の鎖」



 そしてそれは、暁羽の声に応え顕現した。



「そは、服[マツロ]わぬ力」






























 一片[ヒトヒラ]の光さえない世界に身を委ねていた女は、女にしか分からない闇の変化にほくそ笑む。



「・・嗚呼・・・」



 薄く開いた唇から零れた、吐息ともつかない音を闇が呑み込んだ。
 貪欲に獲物を求め魔の手を伸ばそうとする世界を宥めながら、女は何もない空[クウ]を見つめるために目を開く。



「変わってしまった」



 何が変わったのだ。そう問う者がいれば女は答えただろう。この世界[モノガタリ]の終末[ケツマツ]が。
 そして、誰もが思わず見惚れてしまうような笑みを浮かべるのだ。



「これだから、やめられない」



 何がやめられないのだ。そう問う者がいたとしても、女は答えないだろう。



「さて、と」



 知ることは時にあまりに残酷であるから、と。